アメリカ国内では単館での公開ながらも、主演 アンドレア・ライズボローの圧巻の演技が話題を呼び、グウィネス・パルトロウ、シャーリーズ・セロン、エイミー・アダムスなど実力派俳優たちが次々と称賛。アカデミー賞主演女優賞へのノミネートを果たし賞レースへと躍り出た本作。
宝くじに当たるも酒に使い果たしてしまい、自由奔放に生きるレスリー。人生の再起を図る姿に心打たれる感動作が、ついに日本上陸アンドレア・ライズボローが演じるのは、宝くじで19万ドル(日本円で約2,500万円)の当選を果たすも酒に使い果たしてしまい、行き場を失くしたシングルマザー。息子にも友人にも見放されながらも、モーテルでの“出会い”をきっかけに人生の再起を図る。
スクリーンとの境界線を越えて滲む、痛々しいほどのリアリティ溢れる演技に胸を打たれ、ラストには涙なしでは見られない心温まる瞬間が待ち受ける――。(KADOKAWA Offical Webサイトより引用)
主演アンドレア・ライズボローの独壇場
アメリカのNetflixでおすすめや、今週の映画ランキングなどにガンガン出てきていて、ジャケットのビジュアルとストーリー導入が好みなので、見てみることにしました。どうやらちょうど先週6/2から配信開始となっていた模様。
それくらい前情報なしで見始めましたのですが、主役の女優がとんでもない演技力だったので(怪演といってもいいかもしれない)、なんだなんだ?と後で調べたら、今年のアカデミー賞主演女優賞でダークホース的にノミネートされた人だと知りました(90年-00年代はアカデミー見まくってましたが、ここ最近はもう全然見ていないのですよね・・・)。そこまで配給されていないインディース作品がノミネートされたことは、賛否両論色々あったと思いますが、きっと一度見ればなぜ他のトップスター達が絶賛するか、なぜそれがノミネートに繋がったかは分かるはずです。
この作品は、主演アンドレア・ライズボローの文字通り独壇場です。一人芝居を観るに近いです。演技力だけでなく、見た目もテキサス州田舎のアル中白人シングルマザー感満載で、体の細さ、髪の毛の質、お肌の調子とか、「いるわー!!」って言いたくなるほど再現されています。それでいて、この役者がまさかのイギリス出身。すごい腕前です。
ストーリーというより経過観察記録
開始10-15分くらいで不安がよぎります・・・まさか、このテンションで2時間!?耐えらえるか!?と。でも結果的に最後まで観られました。
主人公レズリー(演:アンドレア・ライズボロー)に焦点を当てた内容なので、ストーリーというよりは経過観察記録に近かった印象。酒浸りのアル中で、どうにもならない七転八倒シーンがずっと続きます。セリフでストーリーを運んでいくというより、沈黙や表情の演技でのシーン運びが多いです。
起承転結はあるものの、王道映画のテンプレのような気持ちいいタイミングでは訪れず、ここが「転」のシーンか?!と思っても結構裏切られます。周りが手を差し伸べているのに、改心しないシーンが繰り返されて結構しんどいですが、「結局人ってそんな変わらないよね」ってことだと思っていて、私は割と腑に落ちました。
エンディングは少し救いがあるように描かれていますが、割と強引です。そもそも、なぜここまでの酒浸りになったのか、なぜモーテルの男性スウィーニー(演:マーク・マロン)が手を差し伸べようと思ったのか、どこでお互いの想いが変わるのか、なぜお店を出せたのか、どうして周りの人と和解に繋がるのか、などは一切描かれておらず、えー?!みたいな唐突感が多いことは否めません。
でも、家族や小さいコミュニティの問題が少し雪解けになるときは、そういう唐突的なものかな、とも解釈できたりします。ほんの少しの変化が、家族にとって希望に見える感じは分かるような気がします。
ちなみにあのレベルのアル中を治すのは、プロや周りの力が要ると思いますね。一種の脳の病気に近いはずなので、息子のため!ってWill Powerだけで乗り越え出すっていうのは少し無理があると思います。ただ、一歩一歩葛藤しながら進んでいくシーンは残っています。
私が好きだったシーンは、主人公レズリーがバーに行って知らない人に話しかけられた時に「You’re Good」と言って欲しいと伝えるところ。どん底の時って、赤の他人でいいから、なんの意味を持たなくていいから、優しい言葉を聞きたいものですよね。いつか自分が大事に思っている人に、言ってもらえると信じたいですから。
そんなわけで、今回日本のPRポスターにも書いてあるタグライン「人生の 夜明けは みじめで あたたかい」、これはかなり秀逸だと思います!好きです。これを書いた人に会ってみたいです。
キャストで気になるのは、コメディアンのマーク・マロン
主役を演じたアンドレア・ライズボローも凄いですが、私が今回目を離せなかったのは、孤独なモーテル従業員スウィーニー役のマーク・マロン。彼はスタンドアップコメディアンです。
初めて彼の演技を見ましたが、このキャラクターと見た目も相まって、グッド・ウィル・ハンティングのロビン・ウィリアムスを思い出します。ただ傍にいてあげる優しさ、しっかり会話してくれる真摯さ、傷ついていて周りや世間から取り残されている哀愁さ、でもどこか愛らしい、これらを全て表現できている人に感じました。
コメディアンが持つ、特有の雰囲気と間合いがやはり好みなんです。真剣なシーンでも少し緩さが出るので、それが包容力となり、コミカルなシーンはとてもテンポがいい。何より言葉を大事にしているので、相手としっかり呼応します。そういった意味で、コメディアンの演技は大好きです。
これまで他のコメディアンの対談とかは見てきたものの、全然ネタや作品を知らないので、今回で彼を追うことに決めました!早速Podcast聴きまくりです。
内容は脚本家の実体験、ケイト・ウィンスレットも賞賛する制作
このお話は、脚本を手がけたライアン・ビナコの実体験からインスパイアされているそうです。彼のお母さんがレズリーで、彼自身は息子ジェームスなのでしょう。それもあって、タイトルが「To Leslie」=「母へ」という、ある意味書籍の最初に書かれるAcknowledgementと同等なのかと想像します。(なんと過酷な幼少時代だったことか)
また、マイケル・モリス監督のインタビューを聞く限り、撮影は19日間のみ。3週間弱!!この短いスパンで撮りきらなければいけなかったので、とにかく時間がない。ある程度事前に決め打ちして、全員で集中して乗り切らなきゃいけなかったとのことです。ほぼ一発撮りでやったのでしょうね。すごい!この監督は、テレビが主戦場だったようで、これがフィルムデビューとのことなので、これからが楽しみですね。
この作品は評判上々で、色んな人がコメントしていることでも有名です。例えばエドワード・ノートン。
ケイト・ウィンスレットもこの作品を絶賛している人の1人ですが、今回ケイト・ウィンスレット、マイケル・モリス監督、主演アンドレア・ライズボローの三者対談QAインタビューがあって面白かったです。確かに、今回の主役はケイトがこれまで選んできた役に似ていて、好きそうですね。監督も主役アンドレアもイギリス出身なので、繋がりは強そうです。
ケイト曰く「酔っ払いの演技が一番難しいのにコミカルにならずしての酩酊感」、「赤リップの使い方」、「アル中克服時の食事の表現」、「バーで出会うカウボーイの誠実さ」、「マーク・マロンの自然体」、ここら辺の演技力に感心したそうです。俳優目線で職人技的なところを評価していて、ケイトのプロフェッショナリズムが垣間見えて、惚れ惚れしました。ただマニアックすぎて、演技の興味がない人にとってはスルーかもしれないです。
これからも、全員の活躍を楽しみにしたいと思います!