Blackberry Movie 映画「ブラックベリー」感想:スピード感と焦燥感を時代と共に

世界初のスマートフォンの栄光と壊滅的な終焉を描いた真実の物語。”BLACKBERRY”が 競争の激しいシリコンバレーを猛スピードで駆け抜けます。(以下英語簡易和訳)

The “true story” of the meteoric rise & catastrophic demise of the world’s first smartphone, BLACKBERRY is a whirlwind ride through a ruthlessly competitive Silicon Valley at breakneck speeds. (IFC Film)

感想:必見、2000年代のスピード感を楽しむ!

先日の「Air/エア」を見に行ったときの予告編でこの映画を知り、絶対映画館で観ると決めていたので公開とほぼ同時に観にいきました。出たー!感の実話映画。この世代を生きていた世代として、見るしかない。面白くないわけがない。

デヴィット・フィンチャー作品の「ソーシャルネットワーク」も当時2回映画館に見にいった挙句にサントラ聴きまくってDVDを手に入れ、ダニー・ボイル作品の「スティーブ・ジョブズ」は有休とって見に行ったほどなので、この時代のTech映画は世代ということもあり、どうしても自分の過去と照らし合わせてテンション上がってしまうようです。

が、それを別にしても、この種類の映画は、あまりにも知れ渡っている事実過ぎてミスれないので、映画としての完成度を保証できる良い監督の手元に渡る傾向が高く、全体の仕上がりが良質になる特徴があると思います。

そして、この「ブラックベリー」も期待を裏切らず、独自のテイストがあって、とても面白かった。日本公開情報がないので、もしかしたら配信直行かも・・・配信でも楽しめるのでおすすめします!

一番好きだったのは、映画全体があの時代のスピード感を表しているところ。Google、Apple、Facebook、Amazon、いわゆるGAFAが猛烈な勢いで世界を変えていた時代。それぞれスマートフォンを開発をしていたものの上手くいかない中、あのかの有名な、スティーブ・ジョブズがiPhone発表会でプレゼンしときの破壊力たるや。

一般人でも衝撃だったのに、競合他社や携帯キャリア会社にとってみれば天変地異の出来事で、映画の中でその焦燥感とスピード感は綺麗に表現されていたように思います。iPhoneがどうBlackberryを破壊したかを技術面だけでなく、右往左往するキャラクター達を通じて、よく描かれています。(この時の様子は、書籍抜粋のWall Street Journal記事が読みやすいかと思います。)

監督・脚本は映画内でダグ・フレギン役のマット・ジョンソン

物語は、マイク・ラザリディスとダグ・フレギンがジム・バルシリーに売り込みをして、その3人で会社を興すところから始まりますが(ほぼジムの会社乗っ取り)、この前半の映像は臨場感出すためのドキュメンタリー的な手ブレ映像なので、酔いそうになります・・・これは本気で。このテイストでずっと続くと辛いなーと思っていたら、ストーリー的に会社が安定してブラックベリー1位独占状態になったあたりに、映像も安定します。映像的に前半はベンチャー感や不安定さを演出したかったんだろうなーと想像しつつも、酔いやすい人は前半きついはずです。要注意。

そして怒涛のスピード感で進むストーリーと、罵声や不穏な空気がガンガン続いたのち、最後にジム・バルシリー役のグレン・ハワートンが見せる、少し安堵したような笑顔の演出が絶妙すぎて、完璧な仕上がりです。

そんな演出をしている監督は映画内のダグ・フレギン役のマット・ジョンソン。ブラックベリーがカナダの商品なので、カナダ制作・カナダの監督ですね。

私は後から知ったので、開眼でした。ダグは愛着の湧くキャラで、演者としてのマットも抜群。自分を主役に当てはめずに、ダグ役のスタンスで撮影したのが、良い効果生んでそうですね。

その監督のマット・ジョンソンが脚本にも携わっていますが、セリフ量はあるものの脚本は割とあるようで実はない、そんなイメージを持たせてくれるところが結構気に入ってます。背景や状況を説明し過ぎない中でも、ある程度は分かるようになっていて(そういう意味では説明台詞だらけのAir/エアと真逆)、それよりも、とにかくスピード感を味わうフローです。そのスピード感を優先しながらも邪魔しない脚本がフィットして心地良いです。ちゃんと伏線もあり、言葉遊びをしている感じは楽しめます。どんだけジム怒鳴るのさ、っていうところも必見です。

そんな監督が残しているコメントはお気に入りです。映画のQAしている動画がアップされていますので、併せてどうぞ!

We tried to make it very close metaphorically to what filmmaking is like. How success can change the culture of a production company — we just grafted that onto corporate culture. We didn’t want to Hollywoodize it and make these guys seem like Elon Musk. They had to be like LAN party nerds who — by happenstance — wind up changing the world and not even realizing they did it.

本作品を通じて、映画製作がどのようなものであるかのメタファーになるようにしました。成功が制作会社の文化をどのように変えてしまうか。 それを一、企業に落とし込んだ形です。Blackberryに関わった彼らをハリウッド化して、イーロン・マスクのように見せたくありませんでした。彼らは、偶然にも世界を変えてしまったにもかかわらず、自分たちがそれをしたことにさえ気づかない、オタクでしたから。(簡易和訳)

史実5% ジム・バルシリー本人のインタビュー

見終わった後に、いつも通り色々インタビューを漁ったのですが、全然情報がない。

本作品はカナダ映画であり(ブラックベリーがカナダ製品)、アメリカでの公開はインディペンデントや外国映画メインを扱うIFS Filmsが配給会社として担っていて、公開が限定的であるためプロモーション活動もそこまでなく、情報も限られている印象です。

ただ、分かったことは、書籍「Losing the Signal: The Untold Story Behind the Extraordinary Rise and Spectacular Fall of BlackBerry」(英語版のみ)をベースに史実5%で95%は映画用に仕上がっていること。

監督のマット・ジョンソン曰く、ジムとマイクどちらも本人と話したことはなく、オフィスでの状況や情報は元従業員から得たそうです。そんな話はこのインタビューでしてます。

このインタビューで監督マット・ジョンソンが「ブラックベリーの見方は変わったか」といったようなことを聞かれていますが、その回答がお気に入りです。

Blackberry was a product that solved a technical problem but had no vision. I think the iPhone was a product with vision. There are differences between people who are technicians and engineers who solve practical problems and there are Visionaries. And those two people are very different.

Blackberry は技術的な問題を解決したけどビジョンがなく、対照的に iPhoneはビジョンがあった。実際の問題を解決する技術者やエンジニア、それとは別にビジョナリーがいて、全く違うタイプの人です。(簡易和訳:よって2社は全く異なる会社、製品、人だったと言いたいのかと推察してます。)

またジム本人が実際に答えているインタビュー動画を発見。実際映画を見ている側も、さすがにジム・バルシリーはこんな酷い人じゃないよね?って思ってましたが、ジム本人も事実と違うところは多々あるものの、映画として認知しているようです。このジムのインタビュー曰く、マイクとは20年以上ビジネスパートナーで親密だったものの、仕事以外の接点は一切なかったとのこと。ちなみに、マイク・ラザリディス側は一切メディアにコメント出さないスタンスを貫いてます。

哀愁と笑い、捉え方の違い

革命は人類の進化であり、そして残酷です。映画内において、主人公マイクがとにかくキーボードに拘るところがブラックベリーの最大の失脚要因なのですが、自分が生み出した世界を変えた作品を信じたくて、拘りたくて、負けたくなくて、っていう主人公の想いに共感できまして、その想いだけが先走って一番拘っていたことすら妥協した報酬の大きさに直面するシーンは哀愁でした

でも、アメリカの映画館ではみんな笑ってたんですよね・・・基本はコメディタッチで作られているものの、ここも笑うんだ!と新鮮でした。これが受け取り方やカルチャーの違いでしょう。そして、こういった反応の違いを感じられることが映画館で観る楽しさです

この映画を見て、過去を振り返り、いろんなインタビューを見て、やっぱり思うのは、当時堅調だったBlackberryでも、スティーブ・ジョブスの革命的なiPhoneによって、時代を終わらされたんだ、と。冷静な判断がものを言うのではなくて、如何に新しいものを出せるか。そんな時代を生きていた私たちは、当然ながら新しく出ては消えていくことが当たり前に感じて、なんとか追いつこうとするのですが、そのスピードを生み出しているのも私たち人間。本当に皮肉な話ですよね。

ちょっと気になった点:名前の由来と髪型

ちなみに、「Blackberry」の名前の由来は、黒くキーボードがブラックベリーのように実っているからだそうで、最後までキーボードに拘った情熱を感じます(参考サイト)。映画では、シャツにブラックベリーのシミがついているから、っぽい感じの下りでしたが、なんでそうしたかは色々経緯があるんでしょうけども、キーボードに拘っていた伏線にしてほしかったなーと言うのが個人的な思いです。

あと、全員髪型がカツラみたい?ですが、キャラクターに合わせていることより違和感の方が勝っちゃってました(こういったところは予算の影響か?)。あれだったら、髪型は役者のナチュラルなものでもアリだったかな?と。特にジム役グレン・ハワートンは登場時から違和感Maxで気になって、気になって、まー集中できない。グレンのインタビューでは「剃った」といったような表現してますが、うーん、不自然過ぎてそうは見えないので「剃った頭になった」の方が近いかと。どうも髪型に気を取られがちになっちゃうのが、残念ポイントではありました!

書籍のポイント

昨日映画を見終えて、これから書籍を読もうと思いますが、WSJの書籍抜粋記事を少し読む限り面白かったのが、このパート。

ラザリディス氏はアイフォーン紹介のウェブ放送を指差し、「ジム、これを見てほしい」と話した。「アップルは、この製品に(当時はデスクトップ・コンピューターでしか利用できなかった)完全なウェブブラウザーを入れたんだ。通信各社はわが社の製品に(データ量がネットワーク回線を圧迫する)フル・ブラウザーを組み込むことは許さなかった」と振り返る。

バルシリー氏には、顧客としてのAT&Tを失うという考えがまず浮かんだ。同氏は「アップルはより良い条件を得た」、「我が社にそれが許されたことはなかった。米市場は競争が一段と激しくなる」と口にした。
それに対しラザリディス氏は「彼らは実にすごい」と応えた。「別格だ」と。

iPhoneに負けたブラックベリー 凋落の舞台裏(The Wall Street Journal

これを読む限り、結論、Appleとスティーブ・ジョブズは製品が画期的なのもさることながら、通信会社AT&Tとの交渉が敏腕だったということですよね?形は違えど、Blackberryにもその技術はあったなか、実現はAppleに軍配が上がったことこそが人が織りなすビジネスの本髄だなあと。

その観点で読んでみたいと思います!