映画「Air/エア」感想:ベン・アフレックとマット・デイモン 制作会社Artists Equity共同設立デビュー作品

2023年4月5日全米公開、4月7日日本公開。伝説のシューズを誕生させた負け犬チーム、一発逆転の実話。当時のナイキ社員ソニー・ヴァッカロをマット・デイモンが、CEOのフィル・ナイトをベン・アフレックが演じ、2人は製作も担当。ベンが「マットと僕は『AIR/エア』の公開にわくわくしている。この映画は人生最高の経験だった!」と語る本作は、2人が俳優・監督・製作の全方位でタッグを組んだまさに特別な1本。映画史に名を刻む2人が起こす、新たな感動の奇跡が幕を開ける。(ワーナーブラザーズ公式Webサイトより引用)

感想:最高 余韻冷めやらぬバスケ三昧

世代と言われればそれまでなのですが、ベン・アフレックとマット・デイモンの共同制作の作品だなんてワクワクし過ぎて、作品内容をよく知らないうちから楽しみにしていました。蓋開けてみれば、Nikeがマイケル・ジョーダンを獲得してエアジョーダンができるまでの話。完璧過ぎるネタじゃないか!これ以上にストロングなネタはない

公開初日に見に行って大満足。最高。

興奮冷めやらぬまま、彼らのプロモーション活動やインタビューを見漁り聴き漁り、後回しにしてしまっていたNetflixのマイケルジョーダン:ラストダンスドキュメンタリーを週末潰して一気見して、昔読んだシュードッグの本を引っ張り出しながら記憶を呼び覚まし、March Maddnessから引きずられるようにNBAプレーオフの熱狂に身を任せ、Lakers八村塁の異次元な活躍を見守っている今に至ります。

ああ、脳内バスケ大多忙。思えば、昨年の年末にスラダン映画The First Slam Dunkを見た時からバスケ熱と興奮は始まっていたので、映画Air/エアに関しては見に行く前からウォームアップ完了してましたw。

超筋肉質な脚本、最高レベルの演技力、場転少なめのクローズドな空間で生み出すテンポ、90年代映画のテンプレを彷彿とさせるアメリカ感満載のビジネス映画。大好物がてんこ盛りになったご馳走のようでした。

映画のあらすじはどうぞ公式Webサイトから。

筋肉質な脚本と最高峰キャスト

この映画の強みは何と言っても脚本と役者。舞台を見にいく感覚に近いです。シーン転換も役者も少なめで、間合いはセリフか役者の表情で埋めていくので、全員が大量のセリフをぶん回し続けます。ソニー(マット・デイモン)がフィル(ベン・アフレック)のオフィスから立ち去るシーンも3回ぐらいありw、ループ感は否めません。

正直、「説明するためだけの会話じゃん!」だらけです。仕方ない。ビジネス映画は背景や情報を伝えなければいけないので、どうしても説明系セリフが増えてしまいます。

特に出だしのマットとクリス・タッカーの長台詞は、「この尺でスニーカー業界の背景を全部説明しなきゃー!」感が強過ぎて、開始早々一瞬突き放されかけましたが、最短時間で全てを言うにはあれしかないだろうな、と気を取り直してからは、映画終わるまで体感30分でした。あっという間のジェットーコースター。

全く飽きさせません。結果分かってるのに。ジョーダンはナイキを選ぶと知っているのに。

何であんなにハラハラできたのか。脚本と役者が強過ぎるとはこのことだな、と実感しました。

マット・デイモンは昔から大好きな役者ですが、年齢を重ねて更に良い役者に進化してるなーと惚れ惚れ。実際マットは今でもフィットですが、ベンの話だと太らせるためにお腹を入れて、たまに映像を横に膨らましてワイドに見せてたそうです。奥さんに見せたときも”That movie was great, but you looked awful! (映画は最高だったけど、あなたの見た目は酷かったわね)” と言われたそう。特に長台詞スピーチの見せ場シーン、あのシーンのためにこの映画を作ったでしょう。マットならではの技量で、しっかり担ってました。

キャストは全員ハマり役です。特に私が好きだったのは、マイケルのお父さん役ジュリアス・テノン。彼はヴィオラ・デイビスの実の夫です。夫婦が夫婦役で出演。それも良いケミストリーを生んだのでしょうね。

特に彼の笑顔がパーフェクト(このポスターは少し控えめですが)。お母さんが落ち着いたハードネゴシエーターなので、お父さんが素敵な笑顔で見守っている姿は全シーンを底上げして支えてました。そして、このお父さんは実際殺されてしまう事実を思い出し、ショックで少し立ち直れなくなります。マイケルの気持ちは計り知れないですが、どれだけショックなことだったかは、ジュリアスの笑顔を通じてほんの少しだけ伝わったように思います

ジェイソン・ベイトマンも良き脇役。主にTVや配信コンテンツメインで、商業用2流映画に沢山出ているイメージを持っちゃってましたが、これまで見たジェイソンの中で一番好きでした。特に目と声と背丈、ビジュアル的にも役にハマってた印象です

クリス・メッシーナが演じたエージェント役も完璧電話のシーンは実際同じフロアにマットがいて、両サイドを同時撮影したそう。そうでないとあの臨場感は出ないですよね!あの威圧感ながら、実際会うとそこまで背が高くないってところは個人的にツボでした。

強いて言うなら、ソニーをブレさせないで欲しかった

強いて言うならですが、ソニー(マット・デイモン)のキャラが最後脚本のご都合主義的にブレブレなので、そこは保って欲しかったなあと思ってます。

前半の強気で進んでいくソニーと後半お母さんとの交渉からのオロオロとか涙ながらダメだとフィルに報告するソニーは、人が違い過ぎて違和感でした。

そりゃもちろん、心情の動揺があり、前代未聞の無理難題言われて慌てるところを表現したいのでしょう。

でも、あそこまで強気に御法度まで犯して、周りの人を説き伏せながら、全てを賭けた人が、相手から少し交渉されたからと「できない、できない、ダメだ」と言い続けるのか?って言うのが引っかかります。交渉としては、いつ逃げられてもおかしくない状況に持っていってました。少なくとも両親宅に押しかけて「I don’t take No for an answer. (嫌とは言わせない)」と言い放った人の交渉術ではない気がします。

「分かった。待ってくれ、フィルと話してみる。」って電話切って、悩みつつ、フィルに相談しに行くのが前半までの彼なのではないかなーと。

でも、これだと場面も話が続かないw

結局、シーンを膨らませるため、お母さんの見せ場シーンの会話を強調するため、その後最終判断するフィルの男気を際立たせるために、ソニーのコミュニケーションと性格を全て変えたように見えました。

でも映画ですからね。それぞれの見せ場は作らないとですよね。

あとベンが演じるフィルナイトはコント過ぎたので、他の人が良かったかなーと思っちゃいましたが、ベンの映画であり、ベンとマットの掛け合いが旨味なので、この制作では結果にベストですね。役者ベンは大好きですが、フィル役は他に絶対いたなあ、と正直思います。

マイケル・ジョーダンを見せないベン・アフレックの演出

マイケル役を敢えて見せない演出が話題になっていて理由は色々と囁かれていますが、ベンがインタビューで語ってたことが結構納得のいく、好きな答えでした。

When you’re that iconic, when you mean that much to people, when so much of who you are involves your image and what people bring to that, what you represent to them, I’m just not good enough and I don’t think anybody is good enough to create an environment where you can show someone as “Michael Jordan”, you just go “no it’s not.” What I love about it is that he exists in the movie, kind of in the way he exists in the consciousness in the world as nebulous, distant and the Aether, always talked about and obsessed about but not seen. And then it turns out that the pivotal figure instrumental in this was, remember Michael was a 22 year-old scrapped kid, there was somebody who was really making sure that he was protected and taken care of. You think it’s about Michael Jordan and you find out that it’s about somebody else.

(簡易意訳)あれだけ象徴的な、沢山の人にとって特別で、イメージがそれぞれの想いによって形成される代表的な存在であるとき、私も誰も「マイケル・ジョーダン」作ることができない。何を見せても、「違う、マイケルじゃない」と思われるだけ。でも、マイケルは映画の中に存在はしています。世の中の意識の中に、漠然とした、遠い、神話のように、いつも話題にされ執着されながらも、見ることができない存在として。そして、当時マイケルは22歳の若者であり、しっかり守られ、面倒をみてもらえていたことも伝わる。この映画はマイケル・ジョーダンの話ではなく、その周りにいた人の話です。

アメリカの朝番組Good Morning Americaでベンが語っていたので、こちらをぜひ!(英語です)

マイケルに会いに行ったベン 制作の条件とは

マットとベンのインタビューを聴きまくった中で興味深かったのは、ベンが直々マイケル・ジョーダンに会いに行ったお話。

弁護士見解では、この映画はマイケルジョーダンの自伝ではないので法的にはマイケルの許可は必要はないとの判断でしたが、この映画を作るにはマイケルの承認=応援がどうしても欲しかったベン。赴いた甲斐があり、無事前向きな回答を得て、絶対に入れて欲しい条件を何個か言われたとか。

まず一つ目は、オリンピックコーチだったジョージ・ラヴェリング(マーロン・ウェイアンズ)を含めること。たった1シーンしかないので、最初見た時はこのシーンだけ浮いているなーって印象だったのですが、マイケル的にはジョージのアドバイスが色々な決め手だったそう。

でも思えば、最後のソニー(マット・デイモン)のプレゼンがスピーチのようなものなので、キング牧師のスピーチからの伏線だと考えれば、演出としてはアリだったかと、これを書きながら後から思ったりしてます。

二つ目は、ハワード・ホワイト(クリス・タッカー)を含めること。ハワードがNIKEにいて、この当時温かく迎え入れてくれたことを含めて、マイケルが慕っている大きな存在だからだそう。そういうニュアンスだから明るいクリスになったのか、と納得してます。

そして、最後に母親役はヴィオラ・デイビスを起用すること。マイケルにとって、両親が大きな存在であることはとても有名なお話で、どんなマイケルのインタビューやドキュメンタリーを見ても、お母さんが舵お父さんが心の支えです。実際本当にAdidasに決めていたなか、お母さんに「話だけ聞きにいきなさい!」って言われて渋々NIKEのプレゼンを聞きに行ったのは有名なお話。ヴィオラが出演OK出してくれたことでプロジェクトが船出できたそうです。

結果、全てをクリアして制作に至り、その後セットの作り込みに時間がかかり、スケジュールずれ込んだものの、漕ぎ着けてくれて良かった!80年代のセット、やっぱり電話は味が出ますね。色んな電話が出てきて面白かった。オフィス、車、公衆電話、家。色んな電話が時代を感じさせてくれました。

ここら辺のエピソードはベンが色んなところで話してますが、1番ポップに聞けるのはJimmy Kimmel Showかもです。ぜひ!

マットとベンのArtists Equity

ベンとマットのコンビは90年代から今に至るまで、映画界を盛り上げている稀有なタッグです。

幼少期にボストンで出会い、駆け出しの役者生活を共に過ごし(時に共演もして)、かの有名なグッドウィルハンティングの脚本を2人で書き下ろし、ガスヴァンサント監督とロビン・ウィリアムズに恵まれ、20代早々にアカデミー脚本賞を受賞。そこからの2人のキャリアは言うまでもなくトップ中のトップ。特にベンアフレックは監督業としても目覚め、「アルゴ」がアカデミー作品賞をとるなど、成功を収めて花開かせてますね。

と振り返ってたら、1日前にこんな動画がアップされてました。Vanity Fairさん、なんて気の利いたタイミングの企画だw 2人でこれまでのキャリアを振り返ってますので、ぜひ。なんて濃厚な道のりでしょう。

そんなベンとマットが立ち上げた制作会社がArtists Equity。会社名がビジョンを語っていますが、製作者、クリエイターやアーティスト、スタッフが平等に利益を得られるよう、タレント、スタジオ、配給会社の関係を再構築していくことが目的です。Webサイトが至ってシンプルで分かりやすくて、かっこいい。

Artists Equity is an artist-led, independently capitalized studio co-founded by Ben Affleck, Matt Damon and Gerry Cardinale of RedBird Capital, that partners with filmmakers to empower their creative vision and broaden access to creator and crew profit participation. Affleck and Damon are reimagining the relationship between talent, studio, and distributor via an innovative model that prioritizes creators and leverages a proprietary, data-driven approach to distribution.

Air/エアはArtists Equityの制作第1弾として、華々しく打ち上げた作品となりました。デビューを飾るにふさわしい、ネタ、内容、キャスト、方向性だと思います。今後のプロジェクトも楽しみです。実際にクリエイターにとって、映画の関わり方がどう変わっていくのかも楽しみですね。

ベンの監督作品を見ると、彼は色んな要素を適材適所にはめ込んで、完成の形に持っていくのが上手いなあと感じます。何と言いますか、超アーティスティックなわけではなくて、作り方が至ってビジネスマン。適切なリソースをある一定のテンプレにあてがいながら作り上げるのが上手なので、私みたいなサラリーマンに刺さる気がしています。

適切なリソースを持ってこれるのもベンが長年構築したネットワークで、みんなの士気を高められるのもベンのカリスマ的なエネルギーで、作品として完成度高くまとめられるのはベンの俯瞰性のある包括力、それを全て繋ぎ合わせられるのがベンのセンスと才能だと思います。

その横で支えるのは、生涯パートナーのマットですよね。ベンにとってマットは常に追いかけてきた存在であり(実際マットが2歳上)、子供の頃からずっと頼れる良き相談相手。私生活もビジネスもブレない人なので、公私共に波瀾万丈なwベンと最強のコンビだと思います。この2人を見ていると人生は出会いが全てだな、と実感します。

これからもマットとベンの活動が楽しみです。Artists Equityのご発展を祈願!

補足:Entertainment Weeklyのキャスト全員のラウンドテーブルは、雰囲気も含めて結構良かったです。それぞれの裏話を話してくれてます。

補足2:マットが演じたソニー・ヴァッカロのインタビューはこれが一番良かったかも。マットともしっかり話し合い、この映画の監修をしたそうです。「ソニーはバスケを愛し、バスケ選手を愛している人だ」とマットが語ってました。Rich EisenはYouTubeでもSpotifyでもありますのでぜひ。

補足3:マットとの過去を含めて、映画Air/エアだけでなくArtists Equityのことも語ってくれているのは、このPodcast回がおすすめです。これに限らず、このPodcastチャンネル「Smartless」自体おすすめです。私は毎週月曜更新を楽しみにしています。今回Air/エアにも出ていたジェイソン・ベイトマン、Will&Graceのショーン・ヘイズ、Bojack Horsemanのウィル・アーネット3人が毎週ゲストを呼ぶトークショー。その中でも、ベンの回は如何に熱を維持させる才能があるかが伝わる集中力と濃度でした。ぜひ!