同じ題材が同時にドラマ化され、Hulu「キャンディ」は2022年5月配信、Max(旧HBO Max)「Love &Death」はその1年後の2023年5月に配信されました。同じ時期に同じ題材の作品を出す、久しぶりのパターンなので、どうしても比較してしまいますよね。
実話の事件を描くクライムサスペンス。80年代、アメリカ・テキサスの静かな田舎町に暮らす主婦キャンディ・モンゴメリーが、同じ教会に通う友人女性を斧で殺害した事件です。
両作品、全話見ました。私は完全に「Love & Death」派ですが、感想やコメントを見ていると本当にちょうど半々です。題材の扱い方、キャラクターの作り込み方、時代描写も全て大きく異なりますが、結果的にHBOが後から出たのもあり、Huluに軍配上がりやすい現象かなと思ってます。
なお、この作品はどちらも最終話に斧で殺害するグロテスクシーンがありますので、ご注意ください。私はそのシーンは直視できず、知っていたらもっと早く目を背けたのにとすら思いました。
でも、作品自体はとても楽しみましたので、なぜ「Love & Death」をおすすめしたいかを中心に書きたいと思います。なお、内容にはそこまで触れていませんが、構成等のネタバレは入っていますので、ご注意ください。
Love & Death (HBO Max) / ラブ&デス(U-NEXT)
1980年代。テキサス郊外に住む主婦・キャンディは、エリート企業で働く夫と2人の子供に恵まれ何不自由ない生活を送っていたが、言葉に表せない欲求不満を抱いていた。ある夜、教会仲間のアランに性的欲求を抱いたベティは、彼に不倫をする提案を持ちかける。「アベンジャーズ」シリーズのエリザベス・オルセンが“危険な主婦”を好演。『ビッグ・リトル・ライズ』のスタッフが手掛けるスリリングなサスペンス。(U-NEXTより引用)
Candy (Hulu) / キャンディ (Disney+)
「Candy(原題)」は、1980年に米テキサスの田舎町に暮らす主婦キャンディ・モンゴメリーが、同じ教会に通う友人女性を斧で殺害した実際の事件を描くクライムサスペンス。家族と幸せに暮らしていたはずが、残虐な凶行に及ぶ主婦キャンディをビールが演じる。(映画.comより引用)
「Love & Death」の方が好きな理由
私は「Love & Death」を先に見た側ではありますが、全体的な完成度と制作力が強かったように思います。その主な点にフォーカスしてみます。
構成力と脚本力が好み
1-3話で人物紹介、4-7話で事件から法廷へ
「Love & Death」は全7話配信です。1-3話同時配信で、それ以降の4-7話は毎週木曜日4週に渡って配信されました。最近の配信コンテンツでよくある毎週配信パターンでしたが、最初の1-3話を一気配信した構成は明確でした。
1-3話=3時間近くかけて、事件の当日までの様子が描かれています。各キャラクターとそれぞれの人間模様を丁寧に描き、家庭内やコミュニティ内など色んな角度で生活を見せます。3時間後の3話目までには、全登場人物を把握できており、なんならそれぞれのキャラに感情移入できるレベルになってます。3話目の最後に事件が起きることを匂わせて、ここまで一気に見させて、この続きから毎週配信に切り替わるので一旦お預け。
ああ、もうこれは毎週見なきゃいけなくなっちゃったパターン。実際、毎週木曜日の配信を楽しみにする生活を1ヶ月過ごしました。
これはよく見るパターンで前半一気見させて、後半は昔のテレビドラマと同じように毎週配信することで、1ヶ月近くに渡って温度感を保ちます。そして解約を防ぎます←ここ絶対重要ですよね、だって大体月を跨ぎますから!
この他の利権やお金等色んな背景や理由があるにせよ、個人的には割とこのスタイルが好きです。ゆっくり作品を消化できることと、自然と愛着もわきます。全話配信されてしまうと、やっぱり一気見してしまうので、徹夜気味になるうえにオーバードースで、翌日二日酔いみたいになり、そして、翌々日には忘れて過去の作品になってしまう。それが寂しいので、作品にお金の糸目ない私としては賛成派です。
4話-7話は、法廷がメインになるので、少し中弛みしやすいシーンは沢山ありました。メインが弁護士側に変わっていきます。結論も知られている中での法廷ものは、なんて難しいんだ!中弛み時間は役者力でカバーしてた印象です。ラストはお見事です。
脚本は老舗のデヴィッド・E・ケリー
そして、脚本が分かりやすく、テンポよく、キャラクターがよく作られているなあと思い、調べてみたら脚本家はデヴィット・E・ケリー。出ました、テレビドラマの王様です。アメリカで片手に入る有名な脚本家、例えるなら三谷幸喜、宮藤官九郎、みたいな?位置付けでしょうか。キャストに「デヴィット作品だよ」と言えば、読まずとも承諾する勢いで信頼されている脚本家です。
彼の有名な作品は、「シカゴ・ホープ」「アリーmy Love」「ボストン・リーガル」「ザ・プラクティス」など。彼自身が元弁護士なので、法廷作品が多いです。(超余談ですが、奥様はトップ女優ミシェル・ファイファーです)
私は、90年代の「ザ・プラクティス」に激ハマりしてから、デヴィット・E・ケリー脚本贔屓で、ここ最近だとリース・ウィザースプーン他豪華キャストの「ビッグ・リトル・ライズ」も手掛けました。
彼の脚本は、キャラクター作りに注力されているところが大好きです。とてもわかりやすく、それぞれのキャラクターを象徴するような代表台詞を作ってくれて、会話運びや単語も好みです。無駄なセリフも少ない。全体的に高品質なクオリティを感じさせます。
裏方なので、あまりインタビューに出てこない傾向はありますが、ビッグ・リトル・ライズの時はラウンドテーブルに参加してますね。今回の「Love & Death」のPodcast配信に参加してます。
実力派揃いのキャスト、等身大の演技力が魅力的
デヴィット・E・ケリーの脚本を活かしてくれるのが、今回の実力派キャストです。全員ハマり役で大満足でした。
エリザベス・オルセン(キャンディ役)代表作品となる主演の貫禄
エリザベス・オルセンの顔は見たことあるはずです。なぜなら、あのフルハウスでミシェルを演じた、アシュリー・メアリーケイト・オルセン双子姉妹の実の妹です。姉2人はファッションデザイナーに転向して女優業は引退しましたが、妹のエリザベスはまさに今、脂が乗りまくりです。
今回初めて彼女の作品を観ましたが、圧巻の存在感と演技力で衝撃でした。彼女の豊富な表情、何かを語る不思議で魅力的な目、どことなくある品も含めて、好きな演技でした。最後は主役「キャンディ」そのものでした。
インタビューを聞いている限り、他キャストは彼女との演技をとても楽しんでいる模様。とにかく賢くて、事前準備なくともバチっと一発で決めるから一緒に演技していて気持ちいい、といったようなエプソードが多々ありました。
この作品で大好きになったので、これから彼女の作品は見ていきたいと思います。
ジェシー・プレモンス(アラン役)魅力的な存在感
キャンディの不倫相手を演じるのが、ジェシー・プレモンス。話し方や存在感が妙に魅力的です。
この役者どこで見たのかなと思ったら、「ファーゴ」とかにも出ている、キルスティン・ダンスト と結婚したあの人。え!?こんな見た目だったっけ!?wwって驚いたのですが、PR活動のインタビューを見ると、今度は痩せすぎて、また違う角度で見覚えなくなってました。
役作りのために太ったりしたようですが、今後の健康や家族のために痩せたそうです。
痩せた彼の方が魅力的ですが、あの髪型と体型、テキサス田舎感出てましたね。テキサス・ダラス出身の彼だからこその役作りかもしれません。インタビュー聞いていても、髪型について揶揄われてます。
リリー・レーブ(ベティ役)要の存在感
アランの奥さん役、事件の被害者となる役を担っているのがリリー・レーブ。
彼女が抜群です。しっかり暗さと不気味さ、真面目さと健気さ、全てを表現しています。普通の会話している中で、ちょっと怖さを出せる、女性らしさのある狂気と目つきが印象的です。
Podcastやインタビューの話を聞いていると、色んな観点からキャラクターを深堀して役作りをしているのが伝わります。ベティの視点で事件当日を語ることができない側面を強みに活かして、彼女の解釈で新しいベティの視点を生み出していたように思います。彼女に解釈を聞いてから、もう一回そのエピソードを見ると更に奥深く楽しめました。
映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍しているそうですが、これからも彼女の作品は観たいです。
パトリック・フュジット(パット役)等身大の存在感
キャンディの夫役のパットは、80年代であればどこにでもいたであろう、旦那の雰囲気が上手く描かれています。仕事は真面目に取り組み、土日は芝刈りをして、会話少なめにテレビを見まくり、パッと見奥さんにもそこまで関心がないように映ります。でも、降りかかる問題や事件を通じて、パットが如何に家族思いかは伝わる形で描かれているところが気に入ってます。彼は第2の被害者でしょう。
パトリック・フュジットがアラン役のジェシー・プレモンストと似たような優しさを持っていたので、全体的なトーンが均一化されていました。また、奥さん役のエリザベス・オルセンと並ぶと違和感なく本当の夫婦に見えて、とてもハマり役だったように思います。インタビュー聞いていると、メガネが役作りに必死だったとか。確かに。
どこかで見たことあるなあと思ったら、2000年「Almost Famous ーあの頃のペニー・レインと」の主役の子でしたー!!びっくりー!!!当たり前ですが、20年の時が過ぎているので、もうティーネージャーではないと分かっているものの、こんな貫禄あるお父さん役をするようになっているなんて衝撃です。
衣装や舞台セット、制作クオリティが好み
時代は80年代ですが、ファッションや髪型、舞台セット含めて、時代を踏襲するものの強烈な80年代感ではないところが好みでした。髪型や衣装などは、実在した人や時代よりも、役者にフィットするものが選ばれているように思います。
とにかく映像の質感とクオリティが好きです。テキサスの田舎町での撮影や、どう舞台セットの小道具や、家のインテリアなど、こちらの動画で説明してくれています。
嬉しい毎週のPodcast配信
「Love & Death」は毎週新エピソードが配信されると同時に、毎週新しいPodcastが配信されるという、ドラマファンにはたまらない仕掛けがありました。
エピソードを見てから、Podcastを通じてその週の注目ポイントや、プロデューサー、脚本家、キャスト、衣装担当、セット担当などのインタビューが聴けて、制作の想いに触れることができるのが楽しかったです。
このPodcastだけでなく、このブログにも貼り付けているYouTubeチャンネルに公開された制作裏話の動画が沢山あるのも、私みたいな人には引きが満載でした。
ネタバレ・絶妙なラストシーン
ここからは結末のお話で、ネタバレです。
この事件がこれだけ取り上げられる理由でもありますが、キャンディ(演:エリザベス・オルセン)がまさかの無罪になります。友人であるベティを殺害し、それも斧を41回振り下ろした証拠も出て、自白したにもかかわらず、正当防衛の弁護が通って無罪となったのです。正当防衛といえ、41回も振り下ろすか、なぜ泣いている赤ちゃんをそのままにしたのか、なぜ直後に通報しなかったのか、などが争点でした。
そして、無罪判決後、キャンディは旦那と子供を連れて街を去ります。ラストシーンは街を去るシーンで、アランと密会していたモーテルの横を車で通り過ぎるのですが、この時キャンディがふっと笑顔になります。
私は、「全てやり直せるんだと信じ切っている」「密会していたときに感じた自由をまた感じている」という風に捉えていました。
配信後のPodcastを聴いてみると、エリザベス・オルセン曰く、あのラストの笑顔は「よし、上手くみんなを騙せたぞ、抜け切れたぞ」という意味も込めていたそうです。
結局のところ、誰もキャンディの本性や本音は分かりません。ただ、演じたエリザベス・オルセンとしては、あまりにも衝撃的な無罪判決なので、キャンディが意図的に反抗に及んだ解釈は残しておきたかった、とのことでした。
絶妙な笑顔です。エリザベス・オルセン、お見事です!
Hulu「キャンディ」の特徴と気になるところ
同じ作品ということで、見比べるために後追いで「キャンディ」を見たので、若干先入観ありだったことは否めません。
まず「キャンディ」は全5話エピソードなので、「Love & Death」より2話少ないです。第1話から事件当日となり、そこから遡りながらストーリーを見せる構成でした。人間関係もそこまで細かく描かれておらず、とりあえずキャンディが如何にコミュニティの中心にいるか、ベティが如何に鬱っぽかったかが描かれています。
また、「キャンディ」はキャンディとアランの不倫関係は刺激目的であったように描かれているのが大きな違いです。「Love & Death」は会話や会うことを含め、心理的に支え合っていた形で表現されていました。法廷で「会話するだけの日もあった」といった証言から、そのようのキャラクター作りに発展していったのかと思います。
もちろん実際はどうかは誰も知る由はありません。ただ、ドラマの構成的には、「Love & Death」の方が見応えありました。
衣装、髪型、舞台セット、映像や照明の雰囲気も、ザ・80s感満載。どっぷりあの時代の雰囲気を見たい方ならおすすめしますが、私は若干その映像世界観にそこまで入り込めませんでした。(ここが「Love & Death」と真逆の印象)
でもトドメで一気に心が離れたのは、警察役で急に出てくるジャスティン・ティンバーレイク。これ以上の雑音はない、ってぐらい雑音でした。
どう考えても、あの配役はジャスティンではない。ジャスティンにできないというわけではなくて、やはりトップスターであるネームバリューがあることや、主役ジェシカ・ビールの実の旦那であり、周りの俳優に比べて群抜いて芸能人感出てしまっていて(そして誰よりもイケメンw)、脇役にも関わらず、出てくるだけでノイズだらけで、完全に浮いてしまっています。
このキャスティングの背景としては、ジェシカ・ビールの制作会社Iron Oceanが制作に入っているところが大きな理由です。 プロデューサーとしても名を連ねているジェシカ・ビール本人が、ジャスティンに台本を見せたときに、本人がやりたがったから役を渡した、とのこと。実際、地元の俳優を採用する予定で予定していなかったものの、ジャスティンが出てくれるなら!ということで、全員GO出したのかと思います。
完全に身内ノリで決まったキャストですね。
この映画で一番大事な「Did you kill Betty Gore?」セリフを担っている警察官の役なのにコントに見えてしまいました。地元俳優のチャンスも奪われてしまって残念です。
ちなみに、ソーシャル・ネットワークでショーン・ホワイトを演じたジャスティンは最高です。ハマり役です。あれはジャスティンにしかできないとすら思っています。なので、ジャスティン・ティンバーレイクを否定しているわけではないです。
ここら辺の経緯は、ジェシカ・ビールがPodcastのインタビューでで話していましたので、ご興味あればこちらからどうぞ。
なぜ同時期に2作品配信されたのか
「キャンディ」は2022年5月配信、「Love &Death」はその1年後の2023年5月配信となりました。「キャンディ」が製作に入ったとき、「Love & Death」は既に収録を開始してから2ヶ月経っていたそうです。ジェシカ・ビールがエリザベス・オルセンに連絡を取って、お互いを励ましたとか。
この作品はパブリックドメインで、特に著作権や知財所有権にあたらず、良い作品は同時に拾われてもおかしくないといった解釈でサプライズだったという言い分ですが・・・そんな絶妙なタイミングで被るわけがないですよね!w プロダクション経由で、どこかから情報を聞きつけたジェシカ・ビール達が急いで作ったかな、と憶測してしまいます。
まあ、いずれにせよ、相乗効果でお互いの作品が見られるので、良しかなと思います。私も
この経緯は、Entertainment Weeklyのインタビューで話していました。(どうでもいい余談ですが、2人とも上唇の形が似ていますね)
原作の書籍と記事
両作品ともベースは、書籍「Evidence of Love: A True Story of Passion and Death in the Suburbs 」とTexas Monthly記事「Love and Death in Silicon Prairie: Candy Montgomery’s Affair」が元になっています。そのほかは、法廷陳述や過去に残されている動画ベースに、各々の解釈で進んだそうです。
本は少し読み始めていますが、アランとキャンディの出会いから書かれているので長くなりそうです。日本語訳はないようで残念ですが、ご興味あればぜひ。80年代、アメリカ南部の小さな田舎町で起きた事件でした。