「STILL : A Michael J. Fox Movie 」(AppleTV+) マイケル J.フォックスのドキュメンタリー感想:丁寧に作られた美しい作品、センセーショナルな彼にぴったりな仕上がり

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主演を務めたマイケル・J・フォックスの半生を描いたApple TV+最新ドキュメンタリー映画『STILL:マイケル・J・フォックス ストーリー』。本作は、カナダで過ごした少年時代やハリウッドで大ブレイクした栄光、そしてパーキンソン病を患った当時から今に至るまでの壮大なストーリーに迫ったドキュメンタリーです。

 カナダの陸軍基地で育った背の低い少年が1980年代、国際的な大スターになる。しかし、彼の人生は衝撃的な病気の発覚によって一変。底抜けの楽天家は、不治の病にどう立ち向かうのか…。5月12日よりApple TV+にて配信開始。(Yahooニュース記事より引用

感想:丁寧に作られた美しい作品、センセーショナルな彼にぴったりな仕上がり

誰もが知っている、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのマイケル J フォックス。世代でなくても、映画を見たことなくても、「聞いたことある」俳優ではないでしょうか。

このドキュメンタリーは、彼の生い立ち、奥さんとの出会い、キャリアのピークからパーキンソン病になるまでのストーリーが描かれています。

とても綺麗に、且つとても丁寧に彼のストーリーが描かれていて、完成度がオルゴールのような繊細さと美しさを持ち合わせるアンティーク骨董品のようです。歴史的ヒット作品を担い、センセーショナルな彼が周りから大切にされ、愛されていることが伝わる仕上がりです。

彼は僅か30歳でパーキンソン病になります。30歳・・・そんな若かったなんて。20代前半で手に入れたキャリアのどピーク、人生のパートナー奥さんと結婚して、さあこれから!というときに、この若さでの病が発覚する絶望。「そんなバカな」を繰り返さなければいけない人生を歩み始めます。

パーキンソン病の症状を抱えながら話すインタビュー映像を軸に進みますが、メディアや人前では昔のマイケル・J・フォックスのままです。話し方や冗談を言う雰囲気は、昔のインタビューとそこまで変わりません。そこが印象的で、この約30年の時を経ても、変わらない自分でいる強さは、毎日戦った積み重ねであることがヒシヒシ伝わります。

あと、何より、家族シーンがとんでもなく良い。脚色し過ぎず、アメリカンファミリー過ぎず(カナダ人だからかも)、奥さんと子供4人笑っているシーンは、フラットで、「親父」で、最高です。家族の中でも一番小柄な彼が、奥さんやお子さんに愛され、普通に接する中でも、とてもとても大切にされています

また、力強く支えた奥さんが素敵です。このドキュメンタリーでも出過ぎません。出会った時から寄り添い、彼を静かに支え続けたことが伝わります

なお、Stillには形容詞で「静かな」、「じっとした」、「平和」、といった意味があり、彼は小さい時からじっとしていられなかった、パーキンソン病の影響で動いてしまう等、じっとしていられない=Stillでいられない、といった表現の場面があります。

ただ、きっとこのタイトルは、副詞の「それでもなお」「今までとおり」といった意味もかかっているはずです。

He is still Michael J. Fox。

彼はそれでもなお、今までとおりのマイケル・J・フォックスです。

回顧シーンが映画のような仕上がり、監督はデイヴィス・グッゲンハイム

映像的な仕上がりがレベル高いので、ただのドキュメンタリーではないなと思って調べてみると、監督はデイヴィス・グッゲンハイム。『ER緊急救命室』や『24‐TWENTY FOUR』に携わり、アル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領が主演するドキュメンタリー映画『不都合な真実』で第79回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞していて実績十分です。

マイケルの幼少期を回顧するシーンが、役者やセットなど含めて映画のように作られていて、ここだけで作品になるレベルです。でも、胡散臭くなり過ぎない、そんなタッチがとても好みでした。

インタビューでも「同情作品ではなくて、ダイナミックな映画スターの人生を描きたかった」と話していて、ユーモアや描写を丁寧に組み込みながら実現されていたように思います。

この作品は、2023年サンダンス国際映画祭にて公開されました。その際の監督メッセージがこちら。17年前酷評受けてから、年月が経ち、自信持って映画祭に挑めた作品に違いありません。

エンディング曲が最高:Harmony Hall by Vampire Weekend<

映画に魅了された後、エンドロールで流れてくるこの曲が最高です。初めて聴きましたが、脳天直撃でした。ここ最近聞いた曲の中で断トツでお気に入りです。

いまドライブのお供は専らこの曲です。晴れた日に、この曲をかけ、木々や街並みを見ながらドライブすると最高に気持ちいいです。

幸せな気持ちを思い出せるメロディーながら、少し儚さも感じさせる素敵な曲。この曲はこの作品にピッタリです。マイケルであり、彼の人生であり、彼のチャーミングなトーンもあります

どうやってこんな完璧な曲を選べたのでしょう・・・その人とお会いしてみたいです。

Harmony Hall by Vampire Weekend

We took a vow in summertime
Now we find ourselves in late December
I believe that New Year’s Eve
Will be the perfect time for their great surrender
But they don’t remember

Anger wants a voice
Voices wanna sing
Singers harmonize
‘Til they can’t hear anything
I thought that I was free
From all that questionin’
But every time a problem ends
Another one begins

And the stone walls of Harmony Hall bear witness
Anybody with a worried mind can never forgive the sight
Of wicked snakes inside a place you thought was dignified
I don’t wanna live like this
But I don’t wanna die

Ooh
Ooh, doo
Ooh
I don’t wanna live like this
But I don’t wanna die

Within the halls of power lies a nervous heart
That beats like a Young Pretender’s
Beneath these velvet gloves I hide
The shameful crooked hands of a money lender
‘Cause I still remember

Anger wants a voice
Voices wanna sing
Singers harmonize
‘Til they can’t hear anything
I thought that I was free
From all that questionin’
But every time a problem ends
Another one begins

And the stone walls of Harmony Hall bear witness
Anybody with a worried mind can never forgive the sight
Of wicked snakes inside a place you thought was dignified
I don’t wanna live like this
But I don’t wanna die

Harmony Hall by Vampire Weekend 歌詞日本語意訳

明らかに歴史や政治的な訴えのある歌詞なので、背景の分かる音楽に詳しい日本語訳がないかと探していたら、記事を2つ発見しました。とても勉強になりました!ので引用させていただきます。

「怒りは声になり、声は歌になる」
「歌い手は聴こえなくなるまでハーモニーを奏で続ける」

人生は続く。そのなかでハーモニーを、考えることを、声をあげることを、愛し合うことを、誰かと何かと繋がることを。私たちは止めてはいけないのです。

Vampire Weekend 『Harmony Hall』 ヴァンパイア・ウィークエンド、そしてハーモニーは続く